矢沢永吉が語る金と音楽

やっぱり吉田豪のインタビューが気になって、『ROLLING STONE ローリングストーン』9月号を買ってしまった。
矢沢永吉特集である。
久しぶりに『成り上がり』を読み返したくなった。
あれはいい本だった。中学生くらいが読んでも面白いというのは滅多にない本だ。
最近だと『筆談ホステス』という本が同じ感覚で読めた本だった。
多分『成りあがり』の影響を受けているのだろう。
で、このインタビューはビートルズについて聞く企画はずだったのだが、なぜかお金についても多く聞いている。
お金に関することを聞くことで結果として永ちゃんの純粋な人間性が見えるというインタビューだった。
永ちゃんに興味がある人は是非買って読んでほしい。
全部で1万字を超えたインタビューでかなり読みでがあって、会話や注釈がすべて面白かったからだ。
これでも本文のほんの一部である。

矢沢 あ、そう。ビートルズは僕を引っ張りだしてくれた人たちだね。だって僕、高校出たら板金工になろうと思ってましたから。大学に行くような余裕はウチにはなかったし、まさか自分がロックシンガーになろうとは思ってなかったから。でも、振り返ってみると、やっぱり上に行きたいって気持ちはあったんでしょうね。『板金って、あの車のですか?』って皆さん言うけど、あの時代ってちょうど、自動車の時代がえらい勢いでくるぞって時代だったから。板金は僕が中学校2年の子供なりに見ると『これは来るぞ。当たったら凄いんじゃない?』と思って。
−矢沢さん、いつでもそういう発想しますよね(笑)。

最初はピンと来なかったビートルズだったが…

矢沢 僕はピンとこなかった、2作目ぐらいまで。だけど、『じゃあ、ビートルズの新しい曲を紹介します。“プリーズ・ミスター・ポストマン”』。あれでぶっ飛んだね。バコーンといったもん。頭の中で音が聞こえましたよ、ブチって。……それは嘘だけど(笑)。
 でも、そんな音が聞こえるぐらいショックを受けたの。それからはラジオで、『ビートルズ』って言うとカッとするし切なくなるし、まだ中3とかでいちばん感じる時だからカッコよかったね。それで板金はやめた。
−これからはロックだ、と。
矢沢 だから、今度はロック・バンドを作ろうかと思って。歌手、これは儲かるかもしんないな、と。それで僕は友人に『俺、東京に行って歌手になる』って打ち明けたの。そしたら『お前、頭は大丈夫か?』みたいな感じでしたよ。

板金工になるのをやめて、ロックに走る永ちゃん。
ビートルズから教わったことはお金の儲け方だったという話。

矢沢 僕はビートルズのミュージックでぶったまげて、ファッションにぶったまげて涙が出て。だけど、絶対的に歌手になろうと思ったのは、あのセンセーショナルな生き方!俺たちだって億万長者になれるかもしれないって教えてくれたからだよね。ビートルズは何も言ってないんだけど、僕は勝手に思った。『へぇ〜っ、当たったらミリオナーになるかもしれないぜ、この世界は』ってだから当時、仲間を集めて横浜に出てきてロック・バンドを作って、本にも書いたんだけど、みんなでわいわいダベってる時に、俺いつも印税計算してたもん。『50万枚売れたとして……』って。
−それが凄いんですよね。
矢沢 ある本に出てるわけよ。例えば、『印税とは?』みたいなことが。『レコード印税とは。1枚のレコードの価格はこれとしましょう。そこに物品税っていうのがあって、そこに原盤印税と出版印税があります』って。それで『ほう、魅力的な言葉だ。原盤印税と出版印税、それどういう意味?』と思って読むと、『出版印税とは。出版社が3分の1、作詞家3分の1、作曲家3分の1、この構成で成り立つ。それを管理するのが日本著作権協会だ』とかワクワクするねえ……(しみじみと)。
−ダハハハハ!それでワクワクする人は珍しいですよ(笑)
矢沢 これは凄い世界だと思ったね。僕、そこで『何これ?』と思ってそのページ、何度も読み返したよ。その時、喫茶店で仲間でワイワイやって、あのメロディがいい、レパートリー増やすとか増やさないとかってやってて、『お前、レパートリー増やすとか、それは当たり前の話だよ。だからお前らがやっとけ。俺は印税計算するから』と。そこは完璧に視点が違ってたよね。

感性で生きている人間の代表みたいに見える永ちゃんだが、お金に関しては途端に理知的になる。それくらい計算しなければショービジネスの世界でずっとトップを走ることはできないのか。

矢沢 ……僕の勝手、言っていいですか?これ言ったらたぶん相当ヒンシュク買うと思うけど、この際言っちゃうね。入り口から出口まで音楽だって言ってる人間ほどいいメロディ書いてないよ。今までの傾向からいってね。入り口から出口まで音楽って言ってるヤツほど、音楽やってないと僕は思う。金は魅力的だと言ってるヤツのほうが名曲を残してますよ。これは僕の主観ね。主観だから、矢沢のひとり言だと思って聞いて。
−それ、何が違うんですかね?
矢沢 エネルギーの問題じゃないですか?やっぱり『ワーオ!凄い世界なんだ。こんなに何もない俺たちだって、音楽の世界で当たれば億万長者になれるかもわからない。だから走ります!』って言った時のエネルギーならキレイゴトでDマイナーだのCマイナーだの言ってるヤツよりもいい曲を書くかもしれない。
 ごめんね。でもしょうがないじゃない。世の中それで動いてるから。矢沢はキャロルでデビューした時からそんなことズバズバ言ってたから、あの頃、すごいヒンシュク買ってた。

永ちゃん流の資本主義論だ。
マックス・ヴェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」のカルヴァン派みたいな考え方だな。
デビュー当時からそんな感じでお金がほしいと言っていた永ちゃん。
こうやってインタビューを受けるのもお金のためだという。

−前にボクが矢沢さんを取材した時に、『矢沢さん、こうやって宣伝で取材とか受けるのキツクくないですか?』ってきいたら、「しんどいですよ、でもなんでやるかっていうと、『矢沢売れてえんだ。金が欲しいんだ』」ってハッキリ言ってたんですけど(笑)。
矢沢 ……いいこと言うねえ!面白いもんで、今の時代、それ言ったら『ああ、そうだよね』ってみんな言うよ。これを35年前に言ったら、みんな冷たい目で見るから。だっていちばん最初に受けたインタヴューの時、『週間平凡』に『矢沢を取材したい』って言われて、うれしくてね。『とうとう講談社が俺に取材か……おばあちゃん、俺もここまできたよ』って思ったんだよ(笑)。それでまず、『矢沢くん、なんでロック歌手になろうと思ったの?』ってきいてきたから、僕はすぐに言ったもん。『金が儲かると思ったからです!』って。そしたら、なんかビックリした顔してたよ。
−まあ、驚きますよね(笑)
矢沢 『あれ?なんでこいつマジでビックリしてんの?俺、変なこと言ったかなあ?』と思って、『そうか、なんか音楽に関することも言わなきゃいけないんだな』ってことで、『僕、でも音楽も好きですし』って言って。
−ダハハハハ!それ、全然フォローになってないですよ!
矢沢 そしたら彼は、たぶんそんなヤツを見たことがないんだろうな。『へぇ〜』ってニヤニヤ笑って、今度は『矢沢くん、どのへんまで有名になるのが夢?』ってきいてきたから、『俺、ちょっと変なこと言ったのかな?よし、フンドシ締め直してちゃんと答えよう』と思って、『10メートル先の角のタバコ屋にキャデラックでハイライト買いに行けるような男になりたい』って言ったんですよ。

永ちゃんらしいボキャブラリーに満ちていて、これは好きな話だ。
やっぱりお金というのは創造性とか心とかの対極に位置づけられることが多いのだけど、
そんな簡単なものではなくて、お金というのを味方につけることで、創造性を発揮することも出来るし、心が満たされることもあるなと思った。
で、永ちゃんの音楽の話。海外のミュージシャンの影響を受け、音楽的にも進化続けてきた永ちゃんだが、今度のアルバムはシンプルでストレートなものになっている。
それはなぜなのか?

矢沢 (略)それでもう必要があればニューヨークに行くし、ロンドンに行くし、パリに行くしで。でもある時、『あれ?俺は作り手としてガーッとといってるけど、聴き手はどのへんで聴いてるんだろう?』ってある日ふと思ったんですね。たとえばこのジャパニーズ・マーケットを見たときに、矢沢は世界発売しただのなんだかんだいっても、ベーシックは日本だから、それをふと思った時に、僕は作り手というものと聴き手っていうのにものすごい温度差があることに気づいたんですよ。
−気がついたら先に行きすぎちゃったわけですかね、かなり。
矢沢 でも聴き手って、誰々の何て名前のミュージシャンが弾いたとか弾かないとかマイケル・トンプソンがどうとか、そんなのどうでもいいとは言わないけど、わからないじゃない。
−届かないですよね、そこは。
矢沢 届かない。リスナーは誰が叩いたとか弾いたとか、そんなことは知らねえよ。楽曲としてはパーンッと聴いて『いい曲じゃん。泣けるね』とか『詞がいいね』とか『素敵!』とか思って聴きまくったあとに、クレジットを何気なく見て『へぇ〜っ、ギターのマイケル・ランドウって何?……あ、矢沢はこういう凄いヤツらを起用してたんだ』とかが後にくるんならいいけどね。
 ところが昔の矢沢は『どうだ?このギタリストが弾いてたんだぜ!こんなに凄いヤツが叩いてたんだぜ!こんなに有名なエンジニアがミックスしてるんだ!』と。これは作り手と聴き手の差ですね。それをある日、「ワオ!俺は何してたんだ?」と……
−気づいちゃったんですか?
矢沢 気づいた。バカまじめだったね。作るほうを突っ走って、聴き手が『おーい!』って向こうで呼んでるのに、全然聞いてなかった。まあ、だけどラッキーでしたよ。それに気づいた今、まだ現役でいられたっていうこと。それでグルッと回って、今、直球ど真ん中のストライクのサウンド作ろうって決めたんですよ。直球ど真ん中のストライクのサウンド作ろうって決めたんですよ。直球ど真ん中ってどういうサウンドかっていったら、理屈じゃないんだよ。誰々が叩いたとか弾いたとか、それは二の次、三の次。まずはリスナーが聴いて、わかりやすくて詞がよくて矢沢のヴォーカルのリバーブとコンプレッサーのかかり方がすごい気持ちよくて、スコーンと入ってくるヤツ?それでまた聴きたくなっちゃって、何度も聴いてるうちに『切ないね……』って言えるようなアルバムを作ろうって決めてました。

80年代からの路線を全否定してないだろうか。
それに気づいて60歳でも攻め続けるのがすごい。
変化を恐れない姿勢がすごい。

矢沢 僕、今年の9月で60歳になりますけど、40歳ぐらいの時は結構不満言ってましたもん。『俺には音楽しかねえのか?俺には明けても暮れてもツアーしかないのか?』と。
−もっと可能性あるだろ、と。
矢沢 『ほら、もっとあるだろうよ、ピカッと光る何かが。ほかにあるだろうよ、俺がワナワナ震えることが』って思いません?皆さん。でも間違いなんだよね。それは足掻きなのよ。何かひとつありゃ十分なの。っていうのが今、一つも持ってない人がいっぱいいるわけじゃない。だけど、40代は足掻くのよ。『なんで俺は音楽しかないの?』と。僕のファンは言うよ。『何言ってんの。永ちゃん?音楽やって、あんないいもの作って十分じゃん』だけど、『お前は分かってない!そんなんじゃねえんだよ!』とか、なんか駄々こねたいんだよね。それで女房に頭なでてもらいたいとかさ。
 女だってそうじゃん。40歳ぐらいの時、まだ実はいい女に会えるんじゃないかと思ってない?でも、いい女が絶対いるはずだって言いながら、ふと見たら僕の横に女が寝てるんだ。『あれ?』って、それが嫁さんなんだよね。『ああ、最終的にこいつと最後までいっちゃうのかな?』『そんなわけない!もっと出てくるはずだ!』とか、そういうのが40歳の時はまだあるんだよ。こんなこと言うと女房にまた怒られるけど(笑)。

これは女についてはよくわかる話だ。
こんなことまで語ってしまって、本当に純粋な人なんだなと思った。
お金に関しても人が思っても言わないようなことを言ってしまう。
その純粋なところが人から愛される所以なんだろう。
人を蹴落としてやろうとか意地悪してやろうとかそんなせこいことを全く考えない性格のよさを感じる。
こんな大人になりたいものだ。

ROCK'N'ROLL

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