クイックジャパンの爆笑問題田中インタビュー

近所の古本屋の閉店セールでクイックジャパンのバックナンバーを購入した。
爆笑問題田中裕二インタビューが載っている号。
爆笑問題というのは実は田中が支えているという玄人的な視点がかつて存在した。
それを木っ端みじんに破壊したインタビューがこれだ。
その当時はサブカル誌であったクイックジャパンも何かあるんじゃないかと思ってインタビューしたと思うのだが、掘ってもなにも出なかった。
なにも出ないところがかえって新鮮で10年以上前なのにも関わらず読んだことがとても記憶に残っているインタビューだ。
転載してみたいと思う。
まず田中はアナウンサーになりたかったことが有名であるが。

田中「(略)久米さんが、曲のイントロが流れている間ずーっと喋ってて、最後に“……松田聖子、『赤いスイートピー』”って言うと、ちゃんとピッタリのタイミングで“♪春色の汽車に乗〜って”って歌が始まる。そのリズムがすごく心地良くて、“あっ、いいなー”っていうのが始まりでしたね。ラジオも同じで音楽かける前に喋るじゃないですか。あれが好きだったんです。ふざけて学校でもラジオとか司会のマネしてましたよ。それでアナウンサーに憧れるようになって、高校で放送部に入ったんです」
−放送部ではどんな曲をかけてました?
田中「僕は歌謡曲が大好きでした。『ベストテン』番組みたいな。やっぱりイントロのところで曲を紹介してピッタリ合わせて曲に入るっていうのが好きなんで」
−完全なリズム志向ですね。面白いです。
田中「だから結局ね、何か喋りたいことがあるとか内容を聞いてほしいとかじゃなくて、もっと上っ面な部分というか」
−まさに“MC”だ。
田中「そうですねー。だから今やってるラジオもすごく楽しいんですけど、その当時僕がやりたかったのは必ずしも“お笑い”ってことでもなくて、例えば『えー、今日は東京地方雨がしとしと降っておりますけれども、これで桜とかも散っちゃうんでしょうかねー』みたいな、どうでもいい話をもっともらしくやって、『時計の針は八時五分を回りました、それでは交通情報です』っていうのをやりたくてしょうがなかったんですよ」

中身のない言葉が大好きだという田中。
太田と対照的だと思う。
で、田中のあだち充論とどうでもよい話。
ここまでどうでもいい話を雑誌でできるお笑いの人というのも他にいないのではないか。

田中「あだち充は好きですよ。あだち充はね、セリフ回しですかねー。あの登場人物が切り返す言葉、女の子が言ったセリフに対して主人公が返す言葉とかが、ゲラゲラ笑うとかではない感じで好きなんです。あと、あだち充が得意なのが、こう、心の中のセリフが四角に囲ってあるやつ。それがすごい生きてくるんです。それがその時の本音だったりツッコミだったりして。そういうのが心地いい。『ゴルゴ13』みたいなストーリーマンガでそういうのをやっても駄目だと思うんですよ。あだちさんのマンガってどっちかというとスピード感のないマンガじゃないですか、それが合ってるんでしょうね」
田中「いろいろ指摘されますよ。えーっとね……例えば人と一緒に歩いてるとね、だんだんその人によっていくらしいですよ(笑)太田と歩いてるとするじゃないですか、すると太田にだんだん寄ってくるっていうんですよ。“離れてくれ!”って言われるんですけど、僕も無意識ですから」
田中「あと、僕は知らない道でも勝手に平気で先頭で歩いてっちゃうんですよ、撮影の移動の時とか。スタッフの誰か一人は道を知ってるんですけど、普通、何かの拍子に僕が先頭になっても、その人を先に行かせてついていくじゃないですか。僕は、その人が後ろにいるのを確認して、“この道でいいんだ”ってまっすぐ歩いてっちゃうんですよ。まっすぐだとまだいいんですけど、道が二手に別れちゃうと、なぜか勝手にどちらかを歩いてんですよ。しばらくして後ろから“すいません、こっちなんです”って言われて“あぁーっ”ってなるんですけど」

田中の音楽と映画の趣味も薄っぺらすぎて面白い。

−映画ってどんなのが好きですか?
田中「僕はSF映画が大好きですね。ほんとスピルバーグとか大好きで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか一位を挙げろと言われたらこれからもしんないってぐらい。あと『スター・ウォーズ』とか、ああいうのがどうしても好きですね。『クイックジャパン』の読者のみなさんにバカにされそうなタイプなんですけど、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』みたいな難しいのはあまり分からない(略)」
−音楽、詳しそうですけど。
田中「基本的にポップスっていうか、歌謡曲が好きなんです。季節感がある曲。春になるとEPOの『う、ふ、ふ、ふ』とか聴きたくなって、そうするとすごく気分が高揚して、で、家の庭に沈丁花があるんですけど、春の匂いって沈丁花の匂いなんですね、僕にとって。で、蕾のとき“あ、まだだ”って思って、ある日、蕾が“あっ、開いた”ってなると、庭に行ってその匂いをかぐんです。で、“春だー”って思うんですよ。それだけなんですけど、それがすごく幸せなんですよ。……なんかほんとに悩みないですね、こういう奴は」
「11月になると特に聴いてましたね、クリスマス・ソング。だから季節感なんですよ、僕が好きなのは。音楽的なこと以前に圧倒的に、春を感じるか秋を感じるか冬もしくはクリスマスを感じるかってことが僕にとってはすごく重要で、意識してなくても、好きになると後で“あ、そっかそっか、春っぽいから好きだな”って分かるんです」

で、田中自分を語る。
個人的には太田よりも変人だと思う田中の性格の一端がこれで分かる。

田中「なんか、すごい未熟なのは分かるんです。でも、今となってそれを悩むことが出来ないんですよ。“悩む”って自分の胸の中から自然と出てくることでしょ。僕、悩めと言われても悩めないんですよ。それが悩みですけど。でも、そんなこと五分経ったら忘れるんですよ」
田中「例えば太田に、“なんでお前はあそこでああ言うんだ、普通は気遣ってあっちがああしたらこう行動するだろ”って当たり前の大人のことを言われるんですけど。僕、そこで“また怒られてるー”って思うんですよ、子供のように。そっちの方が強くて、話の中身を把握して次に役立てようっていう、本来あるべき回線を脳みそが通っていかないんですよ。“あぁー早くこの時間が過ぎて欲しい”ってそんなことばかり考えてるんですよ。だから全然上達しないんですよ、何も変わらない。」
田中「あのね、自分で思うのはね、ほんと、“こういう風な人間でありたい”とか“今後こういう風に生きていきたい”とかっていうのがなくて、点のまま生きてるんです。ほんとそのまんま、その場その場なんですよ、全部が」

ラジオを聞いていてもよく分かる、偶然の一致が好きな田中らしいエピソードが次。

−関係ないですけど、田中さん好きな言葉ってありますか?
「うーん、そうですね………なんかあるかな……あ、そうだ、“歴史的な”ってフレーズ、あれすきなんですよ。僕、競馬好きなんですけど、たまにすごい馬が出てきた時に、“歴史的な名馬が誕生しました!!”とかって表現を聞くと、ゾクっとする。“歴史の一ページが今〜”みたいな言い方にウワーッって思うんです。将来、歴史の教科書に載るであろうことを自分が見たってことが、うれしくてしょうがないんです。テレビの『知ってるつもり!?』的な番組でも“ここで歴史が変わった”とか“この後、あの人が出会うことになる”って言うでしょ。ああいう感じ。トキワ荘物語とか、大好きなんです。“なんで石ノ森と藤子不二雄”と赤塚不二夫が一緒にいるんだよ、そんなことってあるか!って」

で、田中の大好きな映画バック・トゥ・ザ・フューチャーの名場面ベスト3。
いろんなもののベスト3とかいつも考えてるらしい田中らしいランキング。

バック・トゥ・ザ・フューチャー」名場面ベスト3
1 ラストシーン
2 過去に最初でドクが登場するところ
3 デロリアン号を初めて見た時の犬の顔

まあ普通だとスケボーのシーンとかになるんですけど……
1は一番ゾクッとしたんですけど、マイケル・J・フォックスが「ドク、これじゃ助走に足りないよ」って言ったら「ふん、道なんかいらねえよ」ってバーッってデロリアン号が上がっていく時、2はマイケル・J・フォックスが過去で電話帳調べてドクのとこ行って、なかなかドクは言われてること信じなくて出てこないだけど、いきなり出てきて、なんか変な機械を身に付けてた気がするんだけど、その時のドクの存在感。
3は、わりと冒頭のシーンで、でっかい犬なんですけど、夜中の駐車場に呼び出されて、すんごい表情するんですよ。アップになってて、不思議そうな、いい表情するんですよ。その表情がすごい好き。

こんな感じで読んだ後何も言葉が心に残らなすぎてかえってびっくりというインタビューであった。
爆笑問題でも太田という人はいろんな政治を語っても科学を語っても、最終的には自分の分野に持ち込んで、自分の語りたいメッセージを伝えて終わりにしてしまうときがある。
太田ははっきりした政治思想とかは本当は持ってないと思う。戦争は悲惨なものだとか言葉は何よりも大事なものだとかそんな大きなメッセージを持っていて番組はそれを伝えるための方便にすぎないと思う。
結局何を語ってもいつものメッセージに落ち着いてしまうのかという感じがするときもある。
ところが田中は全くメッセージがない。
メッセージがなくただそのシチュエーションを楽しんでいるだけだ。
強烈なメッセージを持っていつも伝えたくて仕方がない太田と全くメッセージを持っていない
田中。
そんな対照的な二人がコンビを組んでいるというのは奇跡的なことだ。
太田のように強いメッセージを持っている人間というのはたまにではあるが、存在する。
だが、田中のように伝えたいことが全くなく、メッセージのない人間というのは本当に珍しい存在で真の奇人といえる。