敬愛なるベートーヴェン

アンナという女性が写譜師としてベートーヴェンの元で
働く。耳の聞こえないベートーヴェンの前で合図をし、第九のリサイタルを成功させるという話。
まずベートーヴェンのことを最後まで好きになれない。
単に気性が激しくて不潔という以外の深みを感じなかった。
なぜかというと、神と音楽への思いを台詞で叫んでいるだけで、エピソードで表現していなかったからだと思う。
アマデウスというモーツァルト映画では後ろ向きにピアノを弾いているしまうというシーンでモーツァルトの天才ぶりを視覚的に表現していた。この映画ではそういうはっとするようなシーンがない。
ベートーヴェンが溺愛する甥やアンナの恋人の性格もよく分からなかった。その人たちはどうなったかも分からない。
第九のあと、大フーガという曲を完成させてベートーヴェンは死ぬのだが、第九と違って大フーガはアンナにさえ理解されないし、もちろん当時の人にも評価されなかった。
しかし、後世の音楽家には影響を与えているとのことだが、
その大フーガをあんまり流さないのだからどのくらいすごいのか分からない。
結局見所は第九の指揮をベートーヴェンが行い、その目の前でアンナが補助して、二人の顔と顔が交互にアップで写るシーンだろう。
音楽的な盛り上がりととともに顔のアップでアンナがエクスタシーを感じていることが分かる。
ベートーヴェンが劇中で語る神の言葉としての音楽という主題がよく現れているシーンだ。
もともとエクスタシーというのは宗教用語である。音楽は神の言葉だと言うベートーヴェンは音楽を通じてアンナと愛を交わすのであった。
そこがこの映画の一番のクライマックスであり、録音も良かったので10分くらい続くこのシーンをずっと観ていたかった。
他のシーンは手堅いなと思うくらいで、ベートーヴェンに自分の作曲した曲を理論的すぎると言われてしまうアンナが作った曲のように手堅いだけだと思う。
ベートーヴェンはソウルが大事だというが、この映画は理に落ちてしまって第九のシーン以外ソウルがなかったかもしれない。