岡田尊司「誇大自己症候群」

誇大自己症候群 (ちくま新書)

誇大自己症候群 (ちくま新書)

岡田尊司「誇大自己症候群」ちくま新書。★★★★★。
この本はおすすめ。犯罪とか歴史とか精神医学とか教育とかに興味のある人は是非読んでください。
最近、一見すると普通の家庭で育った子供の犯罪が増えているらしい。
テレビアニメを見ていたらお兄ちゃんに勉強しろと言われてチャンネルを変えられたから、弟が斧で殴ったり。ちなみにお兄ちゃんは一命を取りとめたそうですが。
母親に部屋を片づけるように言われた女子高生はかねてから両親と仲が悪く、掃除をしていたらデートに行けなくなるとむしゃくしゃし、家に放火したそうです。デートから帰ってみると大騒ぎになっていてびっくりしたという事件とか。

佐世保で同級生の女の子を殺しちゃった事件を代表に普通の家庭の精神鑑定をしてもどこといって異常の見られない子供が大変な事件をいともたやすく起こすというケースが増えてきたらしい。

作者はこれを従来の精神医学では疾患として捉えられないために「誇大自己症候群」としてくくって考えることを提案する。
この病気の特徴としては
1現実感の乏しさ、自己愛的な空想
2低い自己評価とそれを補う幼児的な万能感
3他者に対する共感性の乏しさ、罪悪感の欠如
4突発的に出現する激しい怒りや過激な行動
5傷つきやすさ、傷つきへのとらわれ
であるとのこと。

とはいえ、こういう人は昔からいて、ローマ皇帝の例を持ち出す。
O・J・シンプソンの事件とか古今東西の偉人または犯罪者を取り上げてこの病理に偉人と思われる人も犯されている事実を伝える。
この本のこういったところは面白エピソードを読むような感じで楽しめる。
確かに英雄であるが故に万能感に満ちてなんでも思い通りになると行動する偉人もおおいものだ。

で、昔は偉人とかある種の人間が持っていたこの病理をなぜ今の子供達あるいは大人も持ち合わせるようになってしまったのかをこの本は社会とか教育とか経済とか親子関係の面から丹念に考えていく。
で、ある程度の処方箋も出す。
結論から言うと親は愛情を注ぐとともにしつけもするということとか経済的な格差を広げないような社会にするとか。
妥当な結論に達するのであるが。
この本のいいところはちゃんと歴史エピソードとか犯罪者を実際に診察したときの実例を挙げて論理を補強しているところだろう。
そこの所を読むと勉強になるとともに面白いのが素晴らしい。
やはり作者が精神科医であるとともに小説家をやっているだけのことはある。エンターテイメントしても成立している。