絲山秋子「沖で待つ」

芥川賞受賞作を読みました。三十分で読めました。短編です。
ミクシィで見かけるような普通の文体。ですます調で書かれています。読んでいると、日記を盗み見したような気分になります。
バブル期入社組の男女の友情の物語。男女が同じ仕事を日常としてこなすというのは小説として初めてなのでは?男社会に立ち向かう女の主人公という小説はありましたが、この小説はそんな気負いもなく普通に男と一緒に働いています。
職場の専門用語が文の中に普通に登場します。その専門用語や仕事のディテールがこの小説にはっきりした輪郭を与えています。会社の中で男女でありながら戦友同士のような友情を得る主人公。会社という義理が支配する環境での友情という奇跡というか。本当は実はありふれているのかもしれない男女の友情を描いています。
あらすじとしては、太っちゃんという男の同僚と私がどちらかが死んだらお互いの秘密が入っているであろうハードディスクを破壊しようと約束し太っちゃんが死んでしまうという話です。
私は思ったわけのですが、この小説もまた主人公の私のハードディスクに保管されていた自分へ向けての文章みたいなものではないか?と。でもそれは明示されません。
だが、この普通の人が書くような日記文体といい仕事についてのおおよそ外部に向けて書いていないような説明の仕方といいそれを作者が狙っているとしか思えないのですが。
小説の出来としてはこの長さの短編としてはよく出来ているのではないでしょうか。いい人が死ぬと切ないですね。何気ないエピソードで太っちゃんの人柄がよく描かれていました。
ちょっと泣いてしまいました。切ない。