ベルカ、吠えないのか?古川 日出男

この小説は日本のVシネが撮るべき題材、ロシアンマフィア対ジャパニーズやくざと現代史のハイライトを同時並行的にハードボイルド文体で描く。筒井康隆とか舞城王太郎の世界から飛び出した登場人物のせりふと生真面目な中に時折飛び出す口語体が新鮮だ。
現代史のハイライトはひたすらハリウッド映画的であり、現代のロシアはひたすらVシネ的である。
というわけで、この小説は犬の血統をめぐる物語でありながら、小説自体がいろいろな小説(たとえばジャックロンドンとか筒井康隆の短編とか)やVシネとハリウッド映画の雑種であり、雑種の中で交配を繰り返した孤高の犬のような小説なのだ。
とはいえ、恐るべき射程を持つこの小説にいまいち乗れない私がいるのも確かで、なぜなのだろうと思ったのだが、やはり登場犬がころころ変わり、スペクタクル映画の名シーンのような場面がこれでもかと続くところに辟易としたのかもしれない。
歴史小説がいまいち好きではない私にとってやはり、歴史は歴史として資料として楽しみたい。小説も小説として楽しみたい。
なので、この評価。
星四つ。