ハケンの品格 第6話

スーパー派遣社員、大前春子(篠原涼子)が大活躍という話。
今回は家内制手工業で作られているチョコレートの展示を会社
が行うことになう。たらこたらこみたいなハートの被り物でうぐいす嬢として大前春子が活躍したり、あることが原因でチョコレートの売り上げが落ち、契約の打ち切りを告げられたのを、チョコレート屋さんの娘のお産を助産師資格を利用して手伝うことで解決する。
というミラクルな展開。
そうは言っても派遣の定年といわれる35歳をすぎた派遣社員の問題や義理チョコについてどう処するべきかという問題についてもドラマは描いている。
義理チョコ問題はともかく派遣の定年問題については観ているこちらも胃が痛くなってきた。
結果的には救われるのであるが。
このドラマのすばらしいところはなんといっても大勢のキャラクターの描き分けにあるだろう。
ドラマや映画などの映像作品のキャラクターというものはある出来事があり、そこでどう行動するかによってのみ決まる。
今回は冒頭で地震が起き、地震なのにも関わらず仕事を続ける大前春子。里中主任(小泉孝太郎)は森美雪(加藤あい)を落ちてくる書類から守り、森美雪の里中主任に対するほのかな愛情と里中主任のフォローに徹する優しさと同時に好意を感じさせる罪作りなところをあらわす。森美雪が好きな浅野(勝地涼)が地震におびえ、助けられないことで、勝野のおこちゃまさが明らかになる。
同時に地震の直後に携帯電話で家族に電話する場面では
その人にとって本当に大事な人があらわになる。
パソコンスキルの高い派遣社員に家族がいることもわかる。
派遣社員といえどもかなりのスキルがあれば、子供が持てるということを示している。
そして、森美雪には群馬の母親から電話が掛かってきて、
小笠原さんには孫からの電話が掛かってくる。
東海林(大泉洋)は里中主任に同じ社内にいるのにも関わらず携帯電話を掛ける。
東海林は里中との友情でつながっているかのように見えるが、実はすぐに大前春子が地震のときにどうしていたかを聞く。
大前春子のことが真っ先に浮かんだのだ。
東海林の肩につかまっていたのに地震が終わった瞬間にその手を離した黒岩(板谷由夏)は東海林が大前の話をする顔を見ている。さびしそうに。東海林はその黒岩を気遣う様子もなく、すぐ携帯で大前のことを聞いたのだ。
そして、大前春子には携帯には着信はない。大事な人はいないから。
という大変に複雑な人間関係を地震と携帯という手段を用いて描ききった脚本家の手腕には一視聴者として脱帽せざるを得ない。
膨大な人物群がまるで生きているかのように立ち上がってくる。
派遣会社の人のハンサムだけれど、頭を下げすぎ気を使いすぎて猫背になっている感じの人(安田顕)もいそうである。
他の雑魚キャラ社員は文字通り主要人物の後をつけるだけで何もしない。
東海林と黒岩の後をつける社員の図はまるで、白い巨塔の総回診のようだ。
最後になぜ、大前春子はバスの前の停留所で待っているのか。
バスの停留所のベンチは赤い。
赤といえば「千と千尋の神隠し」の橋を思い出してもらえばわかるようにこの世とあの世をつなぐものだ。
バスの停留所でオンとオフが切りかわるのだ。
大前春子は二つの人格がある。バスの停留所はそこの二つの人格が入れかわるところだから、ドラマが生まれるのだ。
今回はスイッチの切りかえがうまくいかなくなって、こらえきれなくなって大前春子は泣いてしまった。
私の予想だと最終回はバスの停留所からどこか違う世界へ行くのではないだろうか。
ゴーストワールド」という映画ではこないはずのバスの停留所で主人公がバスに乗ってどこかへ行くという終わりであった。
この脚本家は「ゴーストワールド」を観ている。間違いない。