働くおっさん劇場

今一番面白い番組といえば働くおっさん劇場である。
これは4人のおっさんがモニターに登場して松本人志がそのおっさんにこれこれをしてくださいとか命令したり質問をしたりするだけの番組だ。
しかし、これが面白い。
野見さんという額に深いしわの刻まれた前歯がほとんどない
おっさんが登場して、長いタイトルコールをするのだが、
絶対間違える。
他にもおっさんたちが登場するけれど、みなテレビドラマにも
バラエティにも出てこない人たちである。
悲惨すぎる生活であるならば、ドキュメンタリーに取り上げられるだろうが、悲惨な生活を送っているわけでもなく、取り立てていうほどの特技を有していない。
もちろん大成功をして取り上げられる活躍をしているわけではない。経歴だけみれば普通のおっさんたちである。
しかし、テレビカメラに写ってなにかをするとなんだか観ている方がおかしい。
おっさんたちの微妙なパワーバランスがこの番組の一つの見所である。
野見さんがちょっと調子に乗って目立とうとすると、最初は笑っていたまっちゃんも急に厳しくなって、叱ったりする。
そのバランス感覚が素晴らしい。ミクシィの「おっさん…」コミュニティも「野見さん面白い」と書かれていたのが、「野見調子に乗るな」と変わっていたり、視聴者はいともたやすく操られている。
まっちゃんがおっさんを叱っている姿を見ていじめだという視聴者もいるかもしれないが、
いじめでもなんでもなくこういう市井のおっさんたちを無視してドラマやバラエティの材料にしない社会のほうがよっぽどいじめを助長しているのである。
それが証拠に新たなる新人おっさんがヒール(敵役)として登場すると途端に、今まで「野見調子に乗るな」と言っていたコミュニティの人も「野見さんがんばれ」に変わっていた。
テレビ的には無視される存在であったおっさん達にいつの間に
か感情移入していたのである。
テレビ的弱者に肩入れする素晴らしい番組である。
テレビを中心とするマスコミが支配したこの日本社会ではテレビ的弱者は社会的弱者と置き換えることもできるかもしれない。
まあ、政治的な正しさは別としてこの番組の新キャラクターおっさん浅見さんのヒールぶりはすごい。
ぺったりとした横わけでいつも小刻みに震えていて、急にうなり声をあげたりする。IT企業を経営していて年収も忘れたがかなりもらっている。ひとしきりレギュラーおっさんの悪口を。
そして、露骨にセフレについて語り自分の気持ち悪さを替え歌にして歌う。
替え歌にしてユーモアを交えても気持ち悪さがまったく消えないどころか気持ち悪さに拍車がかかる。
このおっさんを見て、いろいろ学ぶことが多かった。
たとえ本当であっても人の身体的な特徴についてとやかく言ってはならないこと。
また、下ネタ=面白いというわけではないということ。
若手芸人に多いのだが、下ネタを言えば面白いと勘違いしている人がいる。この浅見さんもそういうメンタリティの持ち主なのだろう。
浅見さんは帝国ホテルにセフレを呼び出し、レストランで食事をした後にチェックインしてすぐことに及ぶとのことだがあまりにもロマンがない。
私は映画やドラマなどの恋愛ものが嫌いだが、その私ですら、ホテルで逢ってホテルで別れるみたいなそんな恋愛はつまらないと思った。
デートにロマンチックな雰囲気を求める女の人の気持ちが分かった。
出会い系で会った若い女と帝国ホテルに泊まるらしいが、
たぶんその女の人にお金を渡していると思う。
なんだか、わびしい気持ちになった。
こういうおっさんになるまいと思った。
学ぶべきところの多い番組である。
今一番面白い番組だが、3月で終わってしまう。
素人が慣れてしまう前に終わらせて、マンネリを防ごうということだろう。潔い態度である。