ワルボロ

ワルボロ (幻冬舎文庫)

ワルボロ (幻冬舎文庫)

ヤンキーの笑いと涙の青春小説。
というとなんだかありふれたもののようだ。
さにあらず、非常に多層的な構造になっている。
主人公の比較的恵まれた家庭環境と仲間の悲惨なそれとのギャップは青春小説の王道である。
スティーブン・キングの『スタンドバイミー』と同じテーマである。
生まれ育ってきた街をどう定義するかどう見てそこから出るのか出ないのかという自問自答は普遍的な若者の姿である。
徹底的に身の丈にあった文体で書かれた思考の形に共感する。
主人公はツッパリになるが、自分はなぜツッパリになったのか理由が分かっていない、ただなんとなくであり主人公も自分を歯がゆく思っている。
自分自身をも相対化し笑いのめしていく文章が
哄笑を呼ぶ。
とともに母親に対して何度も申し訳ないと思いながら不良に続けてしまうというテーマに泣ける。
荒唐無稽ともとれるマンガに出てくるような他校の不良キャラクターが出てくるが、作者自身の経験を反映しているからか、読んでいて醒めることはない。
恋愛も等身大なもので露悪的になることもなく
かといって美化することもなくほろ苦い誰にでも
ある思い出のようにも見える。
井筒監督の大阪不良映画と同じく朝鮮学校の生徒も登場するのであるが、その会話もクレバーである。
日本人にも朝鮮人にも味方していない公平な視点である。政治的にきわめてフェアだ。
国家の問題から地域の問題から家族環境から恋愛の問題まで重層的な問題が主人公の中で渦巻いている。
そこを描きつくしたところがこの小説の素晴らしさであると思うが、そんな小難しいことを考えずともこの小説は断然面白い。
一気読みすること請け合いの笑える大傑作青春小説である。