クライマーズ・ハイ

日曜日に観てきた。8割くらいの入りか。
北関東新聞の遊軍記者の悠木(堤真一)が日航機墜落事件の全権デスクに任命される。
この新聞社内での足の引っ張り合いと日航機墜落事件のあの時代を描いていく。
主人公があちこちからクレームをつけられるところが、胃が痛くなりそうであった。
広告を外して写真を載せたところ、広告局からクレームがつき、自らの出自の話まで
される。締め切りを延ばそうとするとヤクザまがいな販売局から恫喝を受ける。
上司は「大久保・連赤(大久保清事件・連合赤軍事件)」時代を未だに誇りに思っていて日航機墜落事件を報道できる今の記者にジェラシーを感じている。
その上司は印刷するための輪転機の故障を告げず、山に徒歩で向かった佐山(堺雅人)たちは泥だらけになりながら、民家の電話を借りて現場の様子を伝えたのにも関わらず、締め切りに間に合わず、翌日の新聞に載せることが出来なかった。
この新聞社は無線機を持っておらず、民家の電話を借りるしかない。その民家の電話もNHKや朝日などの占拠され、地方新聞は使わせてもらえない。
無線機を持たないのも汗をかくことで地元民の信頼を得られるというなんというか精神論的な理由からである。
輪転機の故障や無線を持っていないなどというバカバカしい理由に左右され、スクープをモノに出来ないところは旧日本陸軍みたいだった。
スクープを載せることが出来なかったために部下からも突き上げを食らい、堤真一が本当にかわいそうな立場で私は思わず泣いてしまった。
社長は社長で自分のセクハラで辞めた秘書の処遇を主人公の友人に任せ、友人を過労死に追いやり、自分は犬のことばかり考えて、主人公が記事のレイアウトについてお願いに言っても次長と犬の話をしていて、無視する。
日航機墜落事件で大騒ぎになっているときに群馬出身の政治家である中曽根康弘靖国公式参拝したためにこれは地元ネタだから一面にしなくてはいけないと主張する社長。
ニューヨークタイムズの記者になりたかったなと言う部長にたまたま群馬に生まれたから北関東新聞にいるだけですよ。ニューヨークに生まれたらニューヨークタイムズの記者になってましたよという部下。
部長に「大久保・連赤」でも全国紙に負けてましたよ、優秀な人材は全部全国紙に行きました
と言う主人公。
「負けたって言うな。負けたって一言でも言ったら終わりだ」という部長。
この台詞に象徴されるように、この映画の主題は地方と中央にある。
この映画を観た後、映画館の前に貼ってある感想が書かれた紙を読んだ。「この映画を観て群馬を誇りに思いました」みたいなことが書いてあった。アホか。
この映画は地方が誇りを持っているがために中央に負けていることを認めず、偏狭な郷土愛のために判断を誤る人間が描かれた映画なのだ。
とくに群馬という郷土愛が強い風土だからこそ起こる悲劇を描いた映画なのだ。
だから、郷土愛批判映画なのだ。
故に主人公堤真一は全くなまりがなく、地元の生まれであるが、GIの娼婦をしていた母から生まれた根無し草である。
嫌気がさした主人公は山に登る。そして、アメリカに息子に会いに行く。
これはアメリカに映画の勉強に留学していたこの映画の監督、原田眞人の個人的体験が
反映されたものだと言える。
地方でくすぶってないで、アメリカとか広い世界を見たらどうだというメッセージである。
最近、郷土愛が強化される傾向が日本社会全般に広まっている。
その風潮に水をかける素晴らしい反地方映画だと思った。