オリバー・ツイスト

オリバー・ツイスト観てきました。これは良心作ですね。
人々の服装とかセットが19世紀です。服もあそこまでぼろぼろにするのは大変でしょう。CGを使ってないだけあって、懐かしい文芸大作という感じです。80億掛けただけはありますね。
なんだか、ミュンヘンのときも同じようなことを書いた覚えがありますが、時代を移して映画を撮るだけで膨大な予算が掛かるのですね。
19世紀の子供がいかに粗末に扱われているか。救貧院でも奴隷のように働かされ、粗末な食事しか与えられません。他のシーンでも子供が鞭打たれ、銃弾が手を掠めるといった現代の人権意識を鑑みるに観るとつらい場面がありました。子供がかわいそうだなと思って観ていて嫌な気分になる人もいるかもしれませんね。
でもこういう現実は子供にも起こりうるので積極的に子供が迫害される場面は映画に描かれなくてはいけないと思います。
ちょうど19世紀のイギリスは貧富の差が開き、資本主義の限界が表れてきたところでした。今日の世界状況との符号が見られ、やはりこの原作を映画化する必然性はあるようです。
というのも福田和也週刊新潮の連載を読んで教えてもらったのでしたが。というわけで、いい映画評は観た映画を立体化してくれるものですね。

ネットに転がっている素人の感情的な映画評では。
子供が主体的に行動しないからいらいらするというのがありました。

子供にどうやってこの映画のようなひどい社会や周囲の状況の中で主体に行動しろというのでしょうか。ヒーローものの映画を観すぎです。それとも子供にも自己責任とか言い出すつもりなのですか。

脱線しました。ということで、原作に敬意を払いつつ、そこは文芸大作特有の退屈なところもありましたが、空の不穏な色やイギリスの農村の草原の美しさなど、映画の料金に値するものを見せてくれました。後半の悪漢と主人公が逃げるシーンもはらはらどきどきしました。良かったです。なんだかルパンっぽいです。
主人公がロンドンに逃げのび、スリの親方に拾われますが、このスリの親方の優しさと狡猾さと汚さが一体になった性格がよかったですね。救貧院に代表される社会福祉は主人公を搾取するだけですが、スリの親方は最低限の生活をさせ救ってくれた。スリの親方は主人公にスリをしこむ悪い奴ですが、飢え死に追い込むわけではない。
そこのところが極めて今日的ですね。
国家の福祉はあてにはならないが、さりとて周りの優しくしてくれる人に完全に頼るわけにもいかないという。
スリの親方の複雑な性格がこの映画に深みを与え、見終わった後に余韻を残しました。