パフューム

パフュームをやっと観た。
本当に映画史に残る傑作ではないだろうか。
生まれつき体臭のない男が殺害した処女の体から香水を
作ろうとする。
この主人公の男の心がないところが怖い。
18世紀のパリの魚市場で魚の内蔵とともに捨てられ
うじと汚物の中で産声を上げる。
その思いつく限り最もひどい悪臭の中での誕生から、最高の香りを求めて男の人生が始まる。
孤児院でも疎まれ、院長に売られてなめし皮職人の助手となるが、そこでも虐待される。
体に残るやけどの跡がそのひどい虐待を物語っている。
全く愛情を得ることなく育った男は心がない。
男は万物の匂いを嗅ぎ分けるというという才能はパリで一番であり、香水屋に拾われてその才能を発揮する。
いとも簡単に流行の香水の調合をしてしまう天才振りが
面白い。
平気で猫を釜の中に入れて香水を作ろうとする。
男にとって最高の香水を作るためには人命や動物の命など
全くとるにたらないものだ。
殺人自体が快楽の男の話は今までの映画にあった。
そして、性欲に狂わされ殺人を続ける男の話もあった。
この映画の場合はそのどちらでもなく、最高の香水を作るために殺人を重ねるという点が新しい。
途中からは「羊たちの沈黙」のようなサイコスリラーの体をなす。
ハンニバルと異なりこの主人公は悪臭の中で生まれたが故に
逆に最高の香りを求めるという反動が描かれているので人格形成の描写に非常に説得力がある。
この男は性欲が女の香りを嗅ぐことに収斂しており、性的不能者といえる。
主人公の好きな香りの女が現れて、女の後をつけて、背後から香りを嗅ぐ。
そんなことをしたら悲鳴を上げられるに決まっていて
悲鳴を止めるために最初の殺人を犯す。
女を殺して髪の毛を切り取り、体から香りを収集することが
男にとってのセックスの代償行為である。
我々も女の香りあるいは男の香りによって性的な何かを呼び覚まされることがあるから、非常に説得力のある設定である。
男の体臭がないのは心がない、内面の空白を現している。
善悪の彼岸に行ってしまった男にとって神も意味がない。
女が次々に殺害されて教会では神に祈ろうと言うが、
その途端に修道衣姿の女が殺されるシーンが平然と挟まれるのがおそろしい。
そういうおそろしい行為を何気なく挿入してしまう的確な演出が素晴らしい。
神を否定した男は万人を惑わす最高の香水を作り自分が神になろうとする。
キャッチーであるが、頭で考えるとバカバカしいシーンも
重厚な映像表現(音楽や撮影など)の積み重ねによって説得力を持たせている。
完璧な映画であるが、美しいものいい香りのものからおぞましいもの悪臭なものまで描くために人によっては辟易とするかもしれない。
だが、いい映画であることに間違いはない。
もう上映終了の地域もあるだろうが是非劇場に足を運んで欲しい。