大日本人

最近流行の言葉で言えばフツーに面白い映画だと思う。
なのに、酷評しか聞こえてこないのはなぜなのだろう。
大日本人として代々巨大化して怪獣と戦うことを宿命付けられた主人公大佐藤(松本人志)の日常を描く。
松本人志働くおっさん劇場でやっていたようなインタビューが中心である。大日本人として松本人志がインタビューの受け手の立場で演じる。
ほとんど松本人志が何かをしながら、インタビュアーが質問をするという形式で成り立っている。
で、何が面白いかというと、言葉を先に言ってしまってそのままどうにかこうにか最後には意味のあることを言おうと努力するところだと思う。
人というのは意外と何も考えてないけれど、質問されると話しながら考えて最後にはグダグダになったり、なんだか意味ありげないいこと言うたったみたいになったりするものである。
理路整然と自分の考えを述べられる人は少なくて、見切り発車で話しはじめることが多い。
そんなあまり上手くないというか標準的な日本人の話し方の面白さをインタビュー形式で描いた作品だ。
で、まっちゃんだけではなくて主人公が通うスナックのママだとか大日本人所轄の防衛庁の官僚や変身するための儀式をする神主や防衛庁の施設の警備員などに話を聞く。
その言葉の意味以外の話の仕方が面白いので、フランス人が編集がよくないと評したのは当たり前だと思う。
特に字幕にしたら論理的な話し方になってしまうから。
そして、ガキの使いのオープニングのようなフェイクドキュメンタリーの部分がある。
これはUA扮する大日本人のマネージャーが仕事ができるけれど、嫌な女で大佐藤にタメ口を聞く様子や大佐藤と奥さんの会話などで構成されている。
これも俳優や有名人を使ったり一般のエキストラの人を使ったりとガキの使いと同じパターンである。
絶妙なキャスティングも同じである。
大佐藤の生活はあまりにもわびしいもので、例えばミスターインクレディブルのようにヒーローの私生活のわびしさを笑いに変えるということもなく、なんだかリアルで身につまされる。
板尾が嫁を連れて恐喝しにくるみたいになんかクスッとくる笑いである。しかもこの映画の場合は誰もそれを受けてリアクションする人がいないのだからわびしい。
大佐藤が住んでいる部屋の様子もみるからに鬱になる汚さであるし、スナックに行ったり場末の飲み屋で飲んだりとうらぶれている。
もっと言うと友近バーのママとか次長課長の一般人の真似みたいなのをずっと見せられるようなそんな気持ち。
かと言ってつまらないかというとそんなことはなく、退屈寸前の微妙な面白さがずっと続いて心地よいというか楽しいと言ってもいい。
フェイクドキュメンタリーとフェイクインタビューに怪獣との戦いが挟まれる。
怪獣との戦いは急にゲームの世界に紛れ込んだような感じで違和感がある。
ガキ使・働くおっさんテイストとゲームが交互に現れる映画なのだなと思ったらラストはごっつええ感じのヒーローもののコントみたいに安っぽい感じになってしまう。
そこをどう評価すればいいのかよく分からない。
最後までドキュメンタリープラスフィクションの味でいったほうが完成度は高かったかもしれない。
そこが個人的にはどうかなあと思うところだ。
しかし、この映画はテレビでいいというものではないと思う。
映画にする必然性があると思う。
映像も映画にするだけあってきれいであった。
それにコアな笑いを目指しているからテレビではきつい。
ガキの使いのオープニングのフェイクドキュメンタリーがずっと続くとしたら、退屈だと思う人もかなり多いだろう。
映像の美しさと観客への強制力(2時間ずっと座ってみなくてはならないこと。それに耐えて分かる面白さ)。
この点から映画にする意味は十分あったと思う。
というか、これだけ面白ければ映画館で見る価値が私はあると考えるのである。