埼玉県所沢市のとんかつ定食となんこつの唐揚げ

井之頭五郎は取引先の都合で早めに仕事が終わり、空腹であった。
しかも折からの低気圧で、街を行き交う人が顔をゆがめるほどの木枯らしが吹いていた。
そんなとき井之頭はなんの変哲もない大型健康ランドの看板を見つけた。
「たまにはいいんじゃないかな。こんなところも」と思った。
井之頭は健康ランドの入り口でお休みどころと書かれた座敷といすのある空間が目に入る。
昼間から酔っ払ったおじさんや若い太った女が座敷に寝ているのが見える。
「意外と年齢層が広いんだな」と井之頭は思った。
「風呂よりも飯だ」井之頭はそうつぶやいて、食券機の前に立つ。
「ここらへんが無難かもしれないな」と写真を見た後に日替わりとんかつ定食のボタンを押す。
ビールを飲んでいるおじさんが気になってチラっとみる。
なんこつの唐揚げを食べている。
「あれもよさそうだ。俺は居酒屋に行かないから、ああいうものを食べる機会がないしな」
となんこつの唐揚げのボタンを押す。
唐揚げ定食となんこつの唐揚げが出てくる。
調味料のコーナーにお盆を置く。
「和からしもあるのか、感心感心」
井之頭は和からしをとんかつの横に出す。
「ここは二段構えでいこう」
別々の小皿にポン酢とソースを入れる。
席に座りとんかつにソースと和がらしをつけ、ご飯をかきこむ。
「もう。こんなになくなってしまった。やっぱり客は年寄りが多いから、量が少ないようだ。なんこつを買っておいてよかった」
なんこつを一つとって口にいれる。もう一つ、二つと口に入れたところで、井之頭は思った。
「もう飽きてしまった。考えてみれば両方とも油ものだし。そ前になんこつを食ったときもすぐ飽きた覚えがあるぞ」
とんかつをポン酢を浸す。ご飯をかきこむ。
「衣にポン酢が沁みるのがいいんだよな」
なんこつをポン酢に浸す。
「なんとなく、なんこつもさっぱりしていい感じになった気がするな」
「結局全部食べてしまった」
空っぽの皿。
「どれ、風呂に入ることにするか」
井之頭は立ち上がる。
露天風呂につかる井之頭。
雪が降ってくる。
「まさか所沢なんて中途半端なところで雪の露天風呂に入るなんて思わなかったな」
ゆっくり目を閉じ後ろの風呂の岩に頭をもたせかける。

という名作漫画「孤独のグルメ」のトリビュート小説を書いてみました。
では。