パコと魔法の絵本

これは泣けた。泣き腫らした。
子供でいっぱいの映画館の中で終わった後、動けなかった。
下妻物語」「嫌われ松子の一生」と傑作続きの中島哲也監督の作品だが、
ハードルを上げて観に行ってもいいかもしれない。
誰からも嫌われる尊大な大貫(役所広司)が病院に入院し、パコという記憶障害で
昨日のことも忘れてしまう少女と出会うことで次第に…
そして周りのみんなも変わっていくという話。
大貫がパコのために病院の入院患者や看護婦・医者などを集め、劇を行うというのが
大筋である。
CGと実写の結合が劇中劇の場面で生かされる。
中島監督らしく、泣かせるところは泣かせながらもくだらないところを残している。
ピクサートイストーリーなどの製作会社)の教科書通りの脚本での王道の映画作りに飽きてしまっているし、反面、ドリームワークス(シュレックの製作会社)の楽屋オチだけのストーリーテリングもうんざりだと私は思っている。
この映画は誰もが泣くであろう物語(ピクサー的)を導入しつつ、映画を台無しにしかねい悪ふざけ(ドリームワークス的)を入れ、どちらも偏らないバランスのいい映画である。
それだけなら、泣かせと悪ふざけが同居した宮藤官九郎の脚本の映画も同じではないかと思うむきもあろうが、極彩色のファンシーとヤンキーが結合したキレイな画面作りでビジュアル的にも斬新な表現を用いているところが、素晴らしい。
ドリームワークスもピクサーも簡単に乗り越えたCG映画が出来た。
ちなみにファンシーとヤンキーとはファンシーなおとぎ話の世界のような美しい色遣いと
大阪のヤンキー的な原色を使う色遣いの合体である。
ナンシー関先生がおっしゃったように日本の大衆のファッションはこの二つしかないのである。
この映画は型どおりのヤクザと変なキャラクターの小池栄子跋扈するというバラエティ番組のような世界観である。
その点、バラエティ番組が一番日本の空気を反映していると私は考えるので、この映画は真の日本映画だと言っていいと思う。
パコという外人の子供を持ってきて、日本のバラエティ番組のような劇を見せ、それを
受け入れさせるという監督の悪辣さに快哉を叫ばずにはいられない。
この映画は「西洋」に対する「日本」の文化の優位性を高らかに宣言した映画なのである。