おくりびと混みすぎ

おくりびと」をシネコンのレイトショーで観てきた。
レイトショーなのにほぼ満員。
おくりびと」用にホワイトボードが入り口に用意され、各回の座席状況が書かれていた。
前日までは各回とも満員だった。
観なそうな映画を打ち切って、「おくりびと」の回数を増やせばいいのにと思った。
東京でチェロ奏者として働いている男が、楽団の解散をきっかけに故郷に戻り、
お金のために、納棺師として働き始める。
仕事が仕事だけに周囲も反対するが…という話。
で、見終わった感想だが、とてもよく出来た映画だと思った。
伏線をすべて回収して、いろいろ泣ける要素を入れてくる脚本がよかった。
ただ、ナレーションでいくつかいらないなと思うところもあった。
映像だけで説明してもよかったかなと。
主役のモックンはなんだか普通にそこらへんに生きている人間にしては台詞回しが完璧すぎるところもあった。
しかし、腐乱死体を見て吐いてしまうなど、情けない姿を演じさせると素晴らしい。周りの客はみんな笑っていた。情けないところもある主人公を全く軽蔑する気にならず、観客がその印象をあとに引きずらないというニュートラルな演技は他の人では出来ないと思った。
演技にその人特有の変な味がついていないところがよかったと思う。
他には広末も出ていた。あんまりよくなかった。
広末の演技はドラマで誰かがやっている演技をコピーしたようなもので、なんだか違和感がある。日常の中で他人を観察することで、演技の参考にすればいいのに、ドラマなどを演技の参考にするからおかしくなる。
あんまり出てこなかったからよかったようなものの、はっきり言って邪魔であった。
次からは広末はすごいブリッ子の役とかやればいいと思う。
とはいえ、モックンが死と向き合ったために怖くなって、家に帰ってきて広末のズボンを脱がし、体を触ることで生を確認するというシーンの広末の腹筋がエロくてよかったと思う。
そこだけは認めていいだろう。
脚本も良かったが、演出も良かった。
泣かせよう泣かせようという最近の邦画特有のくさいシーンがなかった。
笑いも取っていた。
意外と映画でお笑いのシーンを撮るというのは難しいことだと思う。
この映画のように何度も客席に笑いが広がるというのは希有なことだ。
テーマとしては確かに生と死という普遍的なテーマを描いていて、大いに泣けるのだが、
それだけが成功した原因ではないと思う。
みんなに軽んじられる仕事に就くことというテーマも普遍的である。
死というものを扱っているモックンはみんなに仕事ゆえに差別されるし、モックンの住んでいる家は川のほとりである。
なんだか、江戸時代の被差別部落の人みたいだ。被差別部落が裏テーマなのだろうか。
そういった被差別の悲しみというものが、差別を受けてきたアカデミーの審査員のユダヤ人の共感を誘い、今回の受賞となったのだろうという説を唱えたいが、うがった見方かもしれない。
仕事に誇りをもって仕事をしているのに人から仕事を軽んじられるということはよくあることで、そういう結構、誰にでもあるシチュエーションを描いたところがありそでなかった新しい視点だと思う。
あと、主人公が特殊な職業についていて、事件を解決する漫画がよくあるが、そんな漫画の影響も受けている気がした。
とにかく、映画館で観客の笑い声と泣き声が聞こえてきて、楽しい経験をさせてもらった。
出てきた観客はみんな満足そうな顔をしていた気がする。気のせいかもしれないけれど。