有吉弘行、孤独の影

有吉弘行という人はネットでの評価がとても高い人である。
日経エンターテイメントという雑誌のアンケートを見てみると、一般人の評価はそんなに高くなくて、むしろ嫌いな人のほうが多いようだ。
なのに、主にお笑い芸人についてのブログでは大人気である。
また、2ちゃんねるの書き込みなどを見ても評価が高い。
この一般の人とネットをやる人の評価の格差はなんなのだろうとずっと考えていた。
で、二つ仮説を私は立てた。
一つの説としては、有吉のサブカル好きなのがネットをやる人に伝わっているのだろうなというもの。有吉はサブカル好きで、ナンシー関なんかを読み込んでいるのだろう。だからナンシー関が好きだった人たちに好かれているのだろうという仮説である。
もう一つの説としてはロストジェネレーションの代表として人気があるのだろうというもの。
有吉はロストジェネレーションと同じように良かった時代と悪かった時代を経験している。
それがネットをやっているロストジェネレーションの共感を生むのだろうという仮説。
しかし、『本人』という雑誌の吉田豪による有吉弘行インタビューを読むとどっちも大きな原因ではないと思った。
有吉はなぜネットをやっている人に好かれるか?
それは有吉が孤独の影を背負っているからである。
テレビでお笑いを見て、ブログを書いたり、2ちゃんねるに書き込んだりしている人は
絶対に孤独な人である。
もし、孤独じゃなかったらいわゆるリア充の人のように、もっと楽しいことをしているはずだ。
孤独だからこそ、テレビのことをネットに書いているのである。
有吉の孤独の影がネットの人たちの孤独と共鳴して、有吉に人気が集まるのだ。
ネットをしている人は孤独な人を愛す。
ナイナイの岡村が愛されるのも同じ理由である。
だが、有吉の孤独はそんなものではなかった。
底知れぬ谷のように深かった。
『本人』の吉田豪のインタビューから検証してみよう。

有吉 そうなんです。僕、ああいうサブカルの世界って全然詳しくないんですよ。じゃあ、何に興味があるのかっていうと、すべてにあんまり興味がなくて。
−プロレスには興味がありましたよね?
有吉 プロレスも最近あんまり追っかけてないんで、薄いんですよ。だから意外とああいうこと得意だろうと思われて放り込まれることがあるんですけど、ホントに苦手で……。

実は有吉はサブカルには詳しくないという。好きなこと自体あんまりないとのこと。

−基本的にディスコミュニケーションな人なのに、人の心をつかむ技術はすごいわけですよね。『怒りオヤジ』とか観てると、女の子を泣くまで追い込んでから優しい言葉をかけたりとか、アメとムチがうますぎるじゃないですか。完全にDVの男とやってることは同じで(笑)
有吉 ホントそうなんですよね(笑)。女とDVとかも全然ないんですけど、仕事で「やってください」って言われると意外と踏み込めるんです。ただ、そういう理論を本とかにしてるんですけど、あんまり考えてやってないところはすごくあって、全部あとづけで。
……とにかく、僕には全然何もないんです(キッパリ)。
−ダハハハハハ!また完全服従だ!

よくあるブログのエントリーにも有吉理論に学べというのが多いのだが、本人としてはあとづけのようだ。
だが、あとづけであそこまで書けるのもすごいと思う。

有吉 ……(まだ警戒しきった顔で)だって、ものを書く人が一番怖いんですよ、前から。やっぱり猿岩石のときに文章が一番怖いと思っちゃったんで。あれ、一番傷つくんですよね……。
−「ヒッチハイクはヤラセだった!」とか大絶賛から一転して大バッシングを受けたことでマスコミ不信になってるんですね。そういう経験を経て、マスコミ対応は良くしよう、とか思います?
有吉 はい、それはすごいあります。だから、ホントにトラウマなので異様なぐらい頭を下げて。
−それが心がこもってないように思われて。
有吉 そうなんですけど(笑)。怖いですね、もの書きの人は。林真理子さんと対談したときも、ずっとヨイショしてましたし。

マスコミからバッシングを受けたことで、ものを書く人にトラウマがあるようだ。
インタビュアーの吉田豪も怖いという。
かわいそうな有吉。

有吉 ……僕、ホントに付き合いが上島竜兵さん以外とすごい薄くて、友達って誰がいるっていったら全然いないんですよ。それぐらい当時の同級生も僕のこと知らないから、これといって悪いふうにも言えないというのがホントのところなんだと思うんですけど……。
(略)
−じゃあ、番組で誰かに噛みついたり、放送対応出来ないよけいな暴露をしたりするのも、もしかしてすべて流れに乗ってるだけなんですか?
有吉 そうなんですよ。スタッフや演者さんから「わかるよね?」っていうのを感じちゃうんですね、勝手に。だから提供しちゃう。断れないんで。それで適当に暴露しても、「いや、もっとあるだろ。もっとちょうだい」って言われてるなって。それで嘘でもいいから刺激的なことを言おうと思って。
−無駄なサービス精神ですねえ(笑)。

友達がほとんどいないのに、サービス精神だけ旺盛な有吉。かけがえのない友人の竜ちゃん。

−ダハハハハ!また消えたらああいう酷い扱いされるんだろうなと思ってるから、もともとディスコミュニケーション癖があった人が、さらに心を閉ざしちゃうわけですね(笑)。
有吉 はい、すっかり閉ざしてますね。
−たとえば、同じ心の傷を持ってる人にだけは、安心して心を開くことができたりするんですか?
有吉 そうですね。だから、つぶやきシローさんとかと話すと珍しく話が弾んだりはします。でも、その現場お誰かに見られると恥ずかしんで、ホントにふたりっきりのときだけで。ただダンディ坂野さんとかはまた違うんですよ。どっかで自分はまだ大丈夫、みたいな、落ちてないって感覚があるから。
−心の傷が足りないんですね。
有吉 そうなんですよ。……僕、やっぱり芸人とかにもいまだにバカにされてるような感じしますからね。ネタをやってきてないことに、どっかでコンプレックスがあるので。
−完全に被害妄想ですよ、それ(笑)。

つぶやきシローと話がはずむって、『アメトーーク』はガチだったとは。

−間違ったサービス精神と猜疑心の塊で。
有吉 はい。世の中ホンットに嫌な人間しかいないと思ってるんで(キッパリ)。
−ダハハハハ!芸能人だけじゃなく、マスコミからなにからそうだ、と(笑)。大変ですねえ、「電波少年」で背負ったトラウマは……。
有吉 大変です……。
−いいこともありましたよね。金銭面もそうですけど、たとえば番組の企画で藤谷美和子さんとデートの約束を取りつけたりとか。
有吉 それもホントに藤谷美和子さんが好きかっていったら、好きじゃないんですよ。
−え!自分で会いたいって言ったのに?
有吉 変わった感じの人を選んだほうが番組的に面白いんじゃないかって。もし会っても話すことは何もないです。何が好きですかっていっても、別になんの作品も観たことないし。
−じゃあ、たとえばいま好きな人っていますか?その辺の趣味も出さないタイプですよね。
有吉 そうですね。(略)下手に好きですとか言うと、そういうので仕事が来たりするんですよ。
−そこでしくじりたくないんですね。
有吉 はい。実際、底が浅かったりとか、みんなが知ってることをみんなと同じように好きだから、そういうときに面白いこと言えないんで、あんまり好きとか言わないです。
−一言でいうと病んでますよね(笑い)。
有吉 病んでます。意外と快活なところはあるんですけど、やっぱりどこか警戒しながら生きてる感じはしますね。ホントそうです、揚げ足を取られないようにしてるだけですよ。
−ダハハハハ!それだけ!
有吉 それだけです。何が楽しいのか問い詰めたくなりますね……(しんみりと)。
−ダハハハハ!せっかくなので今日は心の病理をどんどん探っていきますけど、それはいつ始まったトラウマなんですかね。やっぱり対父親との関係で?
有吉 たぶんホントに親父が原因だと思いますね。親父がホントに働かなくて、ずっと家にいるっていうのが、みんなの家と違うなっていうところから始まってるんでしょうね。
(略)
−となると顔色をうかがうしかない。
有吉 はい、そこからですね。
−親にも揚げ足を取られないようにする。

揚げ足を取られないようにするために、人の顔色をうかがい、嘘ばっかりついてしまう有吉。やはり、父親との関係が影を落とす。それにしても屈折しきっている。

−家でも学校でも芸能界でもアウェーで。
有吉 竜兵会はホームであるわけですか?
有吉 だからあそこだけですね、ホントに。一番苦しいときにちゃんと普通に接してくれて、「辞めるな」とか言われてたんで。でも悩みを相談したことはないですし(笑)。
−ダハハハハ!じゃあ、いま話してるような病理について相談したことも一切ないんですか?
有吉 ないです。女とかにしても、泥酔状態でしか口説いたことないですからね。
−なんか相当こじらせた人ですよね。
有吉 ハハハハハ!そうですね(笑)。
−童貞喪失が遅かったりしました?
有吉 十八歳か十九歳ですね。学生時代モテないことはなかったし、とも付き合いたかったんですよ。だけど、人のことをバカにして「あんな女と付き合ってんのか」って言っちゃうので、じゃあ俺は、こいつと付き合ったらみんなに何か言われるんじゃねえかなって思うと、とりあえずやめとこうって。
−こじらせてますねえ……。
有吉 こじらせてます、完全に。

女に対してもかんぜんにこじらせている有吉。そこまで他人の目を気にしなくても…。竜兵会があってよかった。ネタだと思ってたけど、竜兵会って有吉の最後の砦じゃないか。友達のいない暗い高校生が文化部の自分の部室だけは明るくいられるみたいな感じか。

−上島さんとか、ああ見えて意外とコンプレックスを持ってる側じゃないですか?
有吉 コンプレックスの塊です。だから全然違うんですけど、理解者といえば理解者なので、居心地がいいのかもしれないですね。まず「俺は全然面白くないけど」っていうのから始まるんで、話を聞きやすいんですよ。
−じゃあ、自信回復法は何かあるんですかね?舞台に立ってお客さんを笑わせるのも、やりたくないみたいだし。
有吉 たまに、たとえば『本人』みたいな雑誌で、インタビューとかじゃなくて勝手に名前出してくれたりすることがあるじゃないですか。全然知らないところで褒められりすると「理解者がいる!」って。
−「ひとりじゃなかった!」(笑)。
有吉 はい、そういうときだけです。その何日かだけは、それがちょっとだけど自信になったりとか嬉しかったりとかしますね。
略 ハハハハハ!なんか変わった人に褒められたいんですよね。ひと癖あってちょっと尊敬されてる人が、どっかで褒めてくれると嬉しいですよ。だから、そこに届けとしか思ってないところもあるんですけど……。
−ちゃんと届いてるから大丈夫ですよ!

なんか安心した。なんにも楽しくなさそうな有吉だが、人から褒められるのは嬉しいのか。
このブログも届くといい。
それにしても、ここまで孤独な人というのはそういないのではないか。
基本的に友達が少ないことを公言する人には共感を持つ私であるが、ここまで孤独だと
共感を通り越して、切なくなる。胸を打たれる。
そういえば、有吉の顔はどことなく寂しげな気がする。
有吉と顔の似ている大学時代の後輩を思い出す。
大学を卒業して以来、友人への連絡を一切絶った彼は元気なのだろうか。
そんなことまで思い出してしまった。
有吉はこれから生きていけるのだろうか。
「生きろとは言わん、死なんでくれ」映画『ユリイカ』からパクってそんな言葉を贈りたくなった。